ヒラリ、ヒラリ蝶のようだ、と思った。

 

 

アゲハ蝶

 

 

 

ヒラリヒラリと舞い遊ぶように  姿見せたアゲハ蝶――……

 

 

「あっ、魔法使いさんこんばんは〜


ふわり、静かに。まるで蝶が花にとまるように彼女の髪が揺れる。もう完全に陽は山に飲み込まれ、青白い月が白い石畳を染める。

いや、染めているのは闇であって、月はそれを照らし光を作っているのだろう

まぁ今はどうだっていいのだが。


あ、こん………ばんは?」


そんな事を考えていて、返事が遅れてしまった。

何と返せばよいのかわからないので、とりあえず住人のやりとりのマネをした。


「ふふ、魔法使いさんも、外、出るんですねーっ


1つ、知りました!と楽しそうにふわふわ笑う、ヒカリという新しく島に来た少女。

何がそんなに楽しいんだろう?と思いながら、向けられた事がなかった、無償の笑顔に心臓がことりと音を立てる。


……ん、息つまるし。星もよく、見える、外。」
何を話したらいいんだろう、なんと答えたらいいんだろう機嫌を損ねたりしないだろうか?

そう思いつつ、恐々と慎重に、ぽつぽつと1つずつ言葉に出した。

何ともない言葉なのに、俺が1つ1つつむぎおとすたび、目の前の少女はこくこくと うなずいてみせた。

「星?星!好きなんですねっ?!

ただの単語を拾い上げ、花を咲かせるように話を広げる。すごいと思う。俺にはできない。

きらきらと、星のように輝いた笑顔に、また1つ、ことりと音が大きくなる。

 

まただ。何だろう、コレ。そう思いつつ頭をかくと、長い銀色がさらりと視界をせまくした。「うんまあ」なんて、無難な答えをすれば、明るく笑う少女。

「えっへへへ、2つめ、です」

大切な宝物を自慢するかのように笑って、確かめるように喋る少女に、ふと思う

 

 

……嫌、じゃない。これは明らかに自分の情報だけ相手に渡って、自分は何も得ていない状況だと思う。俺は昔から自分のことについて探られるのが嫌で、人と顔を合わせないようにしていたのに

この少女になら、何故か、もっと、1つずつ、きちんと

伝わればいいと、思ってしまう。

きみは、こんな時間、まで仕ご

ぽつり。つむぎ始めてから  はっとした。

何で聞いてるんだろう

人のことなんて全然気にならないのに。さっさと切り上げて星を見に行こうと、最初は思っていたのに――

口が勝手に動くなんて、そんな経験初めてで、あばれ出した心臓に体がついていかないし、ぐるぐる廻る思考に頭がついていかない。どうしようもなくて

右手で口を覆ったまま目を上げれば      あぁ ほら、少女は

 

「ふふっ!魔法使いさんが質問してくれたっ♪―そうですよっ、仕事です!納品とか!

一瞬見せた、きょとーんという顔はすぐに消え去り、満開の花が咲く。

    ぎゅっ。心臓がつかまれる、そんな感覚――

時計より速くなった、おかしくなったとしか思えない心臓に手を置いて、何だろうコレ、何だろうコレおち、つけと念じている間()に、少女の声。

「今日は収穫がいっぱいでしたまた、来てもいいですか?」

 

 

あぁきっと彼女は蝶なんだ。ひらりひらりと舞い踊ってつかめない、見る人全てを魅了する、そんな生き物なんだろう

そして 砂漠のようだった俺の心に、1つ  花が咲いた

 

荒野に咲いたアゲハ蝶   揺らぐその景色の向こう―…

 

 

……うん……おいで。」

そうだな、うるさくなった心臓の正体がわかってしまったから、

叶うなら、その羽根を休める時は、   どうか    俺の肩で――…

 

 

 

 

その羽根は、喜びの色とよく似ている

(俺の心にも花が咲いたから、このミツをあげよう)

 





22.08