ハローハロー

ブルーマーク

痛みを伴う青い痣

私に愛を教えておくれ

 

 

ぎゅううっ

それはもう無意識に近かった

呼吸をするのと同じように、生きるために必要な動作として

私の中にプログラムされているから

そうね、強いて言うなら防衛本能のような

 

 

「アニスくん、この薬草を頼んでもいいかな?」

「かしこまりましたわ。すぐ摘んできます」

 

ぎりりぎりり

胃が軋み歯が軋む

 

真っ白なあなたがいる真っ白な診察室は、こんなに近くてこんなに遠い。

 

真っ白な待合室の壁を眺めながら、右手を左腕に運ぶ

所々が青くなった白いそれをきゅうとつねれば

胸に胃に渦巻きかさを増やすもやもやは、しゅうと消えていく

 

手を離すと赤い跡がこんにちは

あぁ、ほらまるで。

あぁ、これが本当にあなたのきすマークならいいのに

 

左腕を勲章のように掲げ上げ、まだ赤いそこに口づける。

 

朝起きた時も朝食をとっている時も家畜の世話をしている時も花に水をやっている時も読書をしている時も散歩をしている時もぼうっとしている時も寝ている時も

考えてしまうのは真っ白なあなた。

一瞬幸せが胸を穏やかに鳴らせて。だけど、そうすぐに。真っ黒なあの人がにこりと笑ってうふふと笑ってぐるぐる私の中を回る

ぐるぐるぐるぐる頭も胸も胃も掻き乱して、血管を遡る。

耐えられない吐き気に太ももをつねれば、すうと消えていくあの人。

あぁ、落ち着く、安心する、大丈夫、私は生きている。

こうしていないと気が狂ってしまいそうで。

 

白に囲まれて瞼を閉じて勲章に口づけていると、診察室からあの人が出てきた。

黒い髪をたゆたゆと揺らして長いスカートをひらりとなびかせて

 

「ヒカリさん、こんにちは」

にこり笑って私の脇を通りすぎていった。

花、の、匂い。

そして薬品の匂いがした。

 

あぁ、いたい。いたいいたいいたいいたいいたい、死んじゃう。

ぎゅうっ

急いでいつもより強くつねってみても、太ももも腕もお腹もどこも全然利かない。

あぁ、死んじゃう、誰か、助けて、

荒くなった呼吸を整える業も知らず、どくどくと脈が上がる

あぁ、私はこのまま死ぬのかもしれない。

焦る心臓の傍らで冷静にそう思った時、誰かが私の右手を掴んだ。

 

「ヒカリくん!君はまたこんな事をして!!

 

 

端から端まで近距離で真っ白に染まった視界を上にスライドすれば

 

「ウォン先生

 

名を呟けば彼ははぁとため息をついた

 

どうして彼がここにいるんだろう、あれ、ここは診察室だっけ、なんてぼうっと混乱した。

 

目が見たいと思ったけれど、ため息と共に下へ落とされた銀縁がきらりと反射して

彼がどんな顔をしているのかも見ることができなかった。

ただ、掴まれた腕があついなぁなんて。

 

「どうして君はこんな事をするんだい?」

 

静かに紡がれた質問は、静かに合わされた視線に乗せられ

すんなりとじんわりと私の中に溶けるように入り込む。

 

どうして

わかりませんか、気付きませんか。

寄せられた眉に細まった切れ長の目

なぜあなたが哀しそうな顔をするのですか?

 

「私はヒカリ君が心配なんだ理由くらい教えてもらえないか」

 

なぜあなたが泣きそうな顔をするのですか?

哀れな私は誤解します。

そうして傷付くのです。

 

「ヒカリ君、何か言ってくれないか?」

 

言っていいのですか?

こんな想いを。

こんな重いをあなたに背負わせて。

口を開けば溢れてしまいそうなのです。

収納しきれなかった鎖が、

がんじがらめに私を絡めてそれでも尚余ってしまった鎖が、

あなたをがしゃがしゃに巻き込めてしまいそうなのです。

 

「なあヒカリ君どうしたらやめてくれるんだ

 

止まらないのです、先生。

わかりませんか

私が自らをつねらずともいられる時がどんな時か。

ほら、今みたいに

あなたが私を見ていてくれる時なのですよ。

 

ぎゅう。強く握られた腕に、命が再び宿った気がした。

 

先生、痛いです。」

 

いたいです先生、ここに居たいです。

あなたの中に居据わっていたいのです。

 

虚ろに口を開いた私に、彼は一瞬驚き、すぐにまた医者らしい顔に戻った

 

「腕がかね?つねっていた所がかね?」

 

 

やだなぁ先生、わかりませんか。

 

 

 

ハローハロー

ブルーマーク

痛みを伴う青い痣

彼に愛を教えておくれ

 

 

 

 

 

愛色の痣

嫉妬心、それが生きる証

 

 

 

心が、ですよ。





23.02