今宵は三日月  シグナルは、青。

 

 

ざざあんざざあん。寄せてはかえす 波の音と、夏とはいえど、深けきった夜の冷やりとした空気。   想いに沈める、この空間で。

 

 

「タオさんって、海みたいですね。」

隣に座る、彼女の声はすんなりと耳に溶け込んできた。

 

 

そうですか?」

案外、自分の声もよく通るものだなと思った。

いつも一人眺める海で、声を発したことはないから。

 

 

「はい!ゆらゆらしてておっきくて穏やかです!!

にぱり。花を咲かせるように笑う彼女につられ、私も ふ、と笑った。

 

 

「ゆらゆらですか??」

「おだやかなんですよぅ〜」

「ふふふ何だか恥ずかしいですねぇ」

 

 

ざざあんざざあん。寄せてはかえす波の音。

この高鳴りを隠してくれているだろうか。

 

 

「ヒカリさん、この間は雲のようだと言ってくれましたよね」

「うっ!…言いました。雲のようでも海のようでもあるんですよぅ

 

 

恥ずかしそうに俯いた彼女を、白い石畳を照らす月明かりが青白く神秘的にうつす。

 

「ふふ、嬉しいんですよ、ありがとうございます」

 

好きな人が雲や海を見るたび私を思い出してくれるのだ。

なんと至福なことなのだろうか。

 

タオさんはですね」

ざあん。

月を閉じ込めた瞳を伏せた彼女の言葉を    波の音がさらった。

 

……え?」

 

 

聞き直した言葉のこたえを

次は聞き逃さないように、体ごと向き直すと

 

 

「タオさんは、優しいですね」

 

 

あぁ、この笑顔は反則です。

 

 

 

 

 

今宵は三日月

朝焼けに黄色に染まり、

夕焼けに赤く変わってしまう前に

シグナルは青、走り出すなら、今―…

 

 

青い春の夏

走りだした恋

 

黙っていようと、思ったけれど







22.10