知りたいことが、たくさんある。

 

「サト、また外見てたの?」

 

病室のベッドから動けない私は、外の景色を見ることでしかもう時間を過ごせない。

そんな私に、飽きることなく毎日話に来てくれる、恋人 カミル。

私がホントにこのまま死ぬのなら

早く彼とはお別れしなくちゃ。

死んでも私を愛してだなんて

そんな恐ろしいコト、言いたくはない。

 

 

雪が見たいの。」

雪?」

 

もの悲しいだけの秋は早く終わって、冬になればいい。

一面の雪景色に、私は同化したい。

 

「そっか。そしたらミニ雪ダルマでも持ってくるよ。」

 

ふふっと笑った彼は自然な仕草で花瓶に花を生ける。

 

何の花かは知らないけれど、まっかな、まっかな花。

きっと彼が育ててくれた  きれいな花

 

雪はどうして積もるの?」

「え?」

 

雪はどうして積もるのだろう

雨はどうして溜まるのだろう

 

あぁ、知りたいことならたくさんあるのに

 

「今日は不思議なことばかり聞くね」

 

困ったように笑う彼に泣きそうになる

 

 

子供みたいに拗ねた気持ちになった私はつんと花から目を背けた。

 

赤なんかより、白が見たいわ。

 

「わからないなら、いいの

 

背中は嘘をつけない。

寂しくないって

言いたいのに

 

「サト?」

 

不安なんかじゃないって

言いたいのに

 

 

 

……

もう2人とも何も言わなくて

あぁ、意味もなく傷付けてしまったかもしれない

と思った。

それでも、彼は静かに背中の真正面に立ってくれるから

 

 

………カミル

ぽつと零れる

あぁあダメだわ、こらえなきゃ

 

…………………カミル

ふるふる震える声は、どうか無視して

 

きゅっと閉じた目に、見えるものはなくて

目もとまで被った布団を握る手は、どうしようもなく怯えてて

 

 

こんな姿は、見られたくなかった

私は、私は大丈夫なのに

 

私は大丈夫だから

 

呪文のように、大丈夫と言い聞かせてきた

そんな私の頭に温かいぬくもりが、乗る

 

「サト、大丈夫だよ」

 

ぽんぽんと慰めるように叩いてくれる、その掌が

春みたいだ、と思った。

 

「しってるしってる」

 

何度も何度も繰り返した言葉だから

でも、私の大丈夫と彼の大丈夫は意味が違う気がして

何故だかひどく安心する

 

 

「ムリしないで。」

 

やめてよ、

 

壊れちゃうよ

 

 

必死に作り上げた堤防は、簡単に決壊した

 

 

「カミルカミルカミル…!

 

ばらばらばら

流れて零れて

 

「こわいよさみしいよさむいよ…!

 

うん、うんと気配は揺れて

あぁあ、隠せない

 

 

……しにたくないよ…!!

 

 

どば、と溢れるものがさらっていく

閉じた目でも光が集まって、それは頬をとめどなく流れる

 

 

がたがた、ふるふると震える私に揺れる声が降る

 

 

「死なせはしないよ、サトは僕と雪を見るんだ」

 

 

あぁ、温かい。温かい、のに。

なんで

なんでこんなに寒いんだろう

 

 

私は

雪を、見ることすら

かなわないのだろうか

 

嫌だ

まだ、まだまだ死にたくない

 

あぁ、本当に私にも、あの花のように真っ赤な血が

流れているのだろうか

 

 

あぁ、まだ、知りたいことがたくさんあるのに

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、カミル

 

 

 

 

 

A病棟502号室にて

そして赤は散る

 

 

どうして私は、

 





22.10