僕たちは確かに、アダムとエヴァなのかもしれない。
僕の島には、大きな木があった。
それは人々の支えとなり、人々はそれを女神の木と崇めた。
だけどいつしか人々は祈る事を忘れ、女神の木は衰え始めた。
そんな時に島に来たのが、あの少女だった。
彼女はその話を聞くと、私がなんとかしますと言った。
まだこの島に来たばかりのくせに、何もわからないくせに、彼女は毎日走り回った。
真っ直ぐな彼女の目に、忘れかけた信仰心を人々は思い出した。
そう、ついに彼女は女神の木を復活させた。
人々は、微笑む女神様を見たと語った。
だけど、木はある日突然消えていた。
最初からそこには、何もなかったかのように。
怒り狂った神さまが、消してしまったのだった。
彼女が、そこでコロボックルと愛を誓ったから。
それは、許されるはずのない愛
神さまが、見逃す筈もなくて。
跡形もなく消えたそれに戸惑う人々は、存在すら疑い始めた。
木は、確かにあったのだろうか
そして人々は、支えを失った。
何百年と
この島を、この人々を、この木を見てきた僕は、ただひたすらに虚しかった。
だけど僕には、彼女のようには出来なかった。
彼女は、コロボックルと共に心中した。
彼女は僕に、「何が許される恋で、何が許されない恋か、私にはわかりません」と笑った。
ねぇ、あなたにもわからないでしょう?
そんな問いかけをされたみたいで、僕は何も言えなかった。
きっと彼女は、今頃灰色のパスポートを持って頬笑んでいるんだろう。
天国の門番に、なぜ灰色のパスポートで笑っていられるんだい。なんて聞かれて。
生まれ変わらなくていい。私は彼と居たいのです。
なんて言うんだろう。
僕は死んだら真っ白なパスポートが欲しい。
だって、死んでから幸せになれなくてどうするんだい。
僕の島には大きな木があった。
確かに大きな木があった。
彼女の笑顔は人々の支えとなり
彼女の笑顔は人々の力となった。
あぁ、僕たちは確かに、アダムとエヴァなのかもしれない。
何が許される恋で、何が許されない恋なのかわからないなら
きっと全てが許されない恋なんだろう。
天涯の恋
‐人は愛するだけで大きな罪を背負う‐
僕は知っていた。
神さまは少女を愛していた。