※大学生?社会人?ちょっと暗い。

 

 

 

鳴り響く目覚ましを、右腕を伸ばして叩き付けるようにして止めると、眩しい日差しが閉じた瞼越しに感じられた。

薄目を開け目に入った既にあけられたカーテンに、ああ独りじゃないんだなあなんて。

 

「おはよう、伊佐敷」

 

のそのそと起き上がりリビングに行けば、朝食をテーブルに並べている彼女がいた。

(お前も伊佐敷になるだろが)なんて柄にもなく恥ずかしいことを考え、頭を掻きながらどかっとソファに沈み込みテレビをつけた。

 

 

別に毎週決まって見ているわけではないけれど。

たまたまいつだかの日曜日の朝にテレビをつけたらやっていた。

最初は「あー野球アニメかー」なんてそんな親近感みたいな軽い興味から見始めて

なんとなく見続けている内、甲子園に向かって全力で青春してる高校生たちが昔の自分たちと重なって

もしかしたら心のどこかで、あの日々を取り戻そうとしてたのかもしれない。

あの日果たせなかった夢をこいつらに、なんて

本当はそんな理由で毎週毎週気にしてないフリしてテレビを付けてしまうのかもしれない。

 

 

と、急に切り替わった画面に間抜けな声を上げて振り返れば、無表情でテレビに向けたリモコンを握っている彼女が立っていた。

テレビから流れ始めたのは女児向けのアニメで。

 

「あぁ!?お前…今見てただろうが!」

「私こっち見たいから。」

 

悪びれもなくそんな理不尽なことを言ってくっつくように隣に座った彼女に、今まで見てなかったじゃねぇか!なんて言えばうん、だのいいの、だの訳の分からない返事ばかりがこちらも向かずに返ってくる。


こいつこんなに強情だったか?と思いつつ俺も何となく食い下がる。

 

「いやでもお前知ってるか?アレな、なんか俺たちに似ててな、」

「知ってる。」

 

かちかち。

時計の秒針の音がやけにうるさい。

そういえばさっきから、アニメの声なんか全然聞こえない。

彼女の言葉から静まり返った空間に、段々と寝惚けていた思考も冴えてきて我に返る。

俺今すげー恥ずかしいこと言ってなかったか?つかなんでこんな必死になってんだよダセェ…。

ふと彼女の方に顔を上げると、テーブルの上に寂しく放置された朝食の匂いが漂ってきて。ああ、腹減ったななんて考えながら彼女をちらと見やった。

別に楽しそうでもなくじっと画面を見つめている彼女に、さっきの言葉の意味はなんだったのかと思った。

知ってるってなんだよ、なんで知ってんだよ、どんな話なんだよ。じゃあなんで見せねぇんだよ。俺だって見てぇじゃねぇか。つうかお前女児向けアニメって。


そんなことを考えていると、ふっとこちらに顔を向けた彼女と目があって。突然のことに目を開くと、無意識に眉がよって睨むような形になっていたことに気付いた。

 

「知ってるの。全部。どうなるのかも。」

 

 

先の会話から間なんてなかったかのように。

表情を変えずにはっきりそう言った彼女に、言いたくなったこととか、言ってやろうと思ったこととか、全部言えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

君に見せたくない夏

-夏は、あの日から進んでいない-

 

 

だからこそダメなの。そう言った彼女があまりにも泣きそうだったから。


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