書き方がわからなくなってる
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知ってる?初恋は実らないのよ。
昔まだ俺がガキの頃に誰かにそう言われた気がする。
ふと急にそんな事が
隣に座る彼女を見て思い出された
 
「それでですね先輩…先輩?」
 
ちゅんちゅんちゅん。雀の声が飛び回る公園で、いつものベンチに座り東条先輩と世間話。
先輩が急に遠い目をしたから、不安になって顔を覗き込む。
 
「あ…ああいや、なんでもねぇよ」
「そうですか?」
 
意識を引き戻したように肩を揺らして、微笑むように笑った。
その笑顔がどこかぎこちなくて少し気になったけれど、ぼうっとする事なんて誰にでもある事だからと流すことにした。
 
「それでですね、庄ちゃんが「そんなの似合わない」って言うんですよ」
「アイツんな事言ったのか」
 
先輩は優しい。
彼氏である庄ちゃんに、お店で一目惚れして買ったピンを一蹴された時の事を思い出し、ぷうと頬を膨らませながら愚痴を零しても
こうして話を聞いてくれる。
愚痴もつまらない私事も他愛ない世間話も、全部全部聞いて受けとめてくれる。
とーっても優しい人。
 
「それ…見てみてぇな」
「えっ?」
 
庄ちゃんとは大違い、と今飲み物を買いに行っている彼を思いぷりぷりしていた思考を先輩の低い声が連れ戻した。
慌てて先輩の顔を見上げると
オレンジ色の逆光のせいで笑顔が儚いように見えた。
 
「そのピン付けてるとこ、見せてくんねぇか」
 
にかり。歯を見せていたずらっ子のように笑った先輩はいつも通りで
あぁやっぱり気のせいだな、って。
 
「いいですよ、ちょっと待ってください」
 
がさりごそりぐちゃぐちゃに詰め込んだバッグをあさり、まだ新しいピンを引っ張り出した。
少し緊張しながら適当に前髪につけ、再び先輩に向き直った。
 
「どうですかっ?」
 
前髪を見せるだけなのに、無駄に振り袖を見せるようなポーズをして先輩に問えば
 
返事がなかった。
 
「えっ…先輩…?」
 
確かに目はこちらに向けられているし、むしろ瞬きなく穴が開くくらいこちらを見つめている。
あぁ、やっぱり似合わなかったんだ…この優しい先輩ですら言葉がなくなるくらいに。
 
「…すいません」
 
少し調子に乗りすぎたかもしれないと
しゅんとしょげて手を下ろしながら体を前に向き直そうとすると
 
「あ、あっ、ワリ…ちょっとぼーっとしちまった」
 
慌てた先輩の声が止めた。
二回程瞬きをし、えーっまたですか?しかもこのタイミングで?と詰め寄ると、バツが悪そうに先輩は笑いながら謝った。
 
「で、どうですか?」
 
少しむくれながら詰め寄った姿勢のままもう一度問い直すと、
 
「ああ、かわいい」
と微笑んだ。
 
ホントですか?と睨みながらずいと顔を近付けると
 
「ああ、ホントだって。すげぇかわいい。」
 
にかっ。満面に笑って、ぽんぽんと頭を撫でた。
近付け過ぎた私の顔は押し戻されて、少し我に帰って恥ずかしくなった。
 
あぁ、先輩はやっぱり優しい。
頭をなでる手も、太陽みたいな笑顔も、かすかに薫る土の匂いも、みんなみんな優しい。
安心する。
あぁ、いいなぁなんて。
 
「先輩が彼氏だったらいいのに」
 
あ、でもお兄ちゃんでもいいかなぁ。
そんな事を考えて笑いながら
目線を合わせるように上げれば
 
「そんなこと言うなよ」
 
あぁ、また逆光。
 
いつもより威勢のない声でそう笑った先輩の笑顔は、見たことないくらい切なくて
いつもの先輩じゃないみたいで心臓がぞくりとした。
 
 
 
 
初恋の迷信
‐それがオレの初恋だった。‐
 
 
 
 
ピンはするりと落ちてかしゃんと鳴った。
その日の公園は燃えているような色だった。
 
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先輩大好き。結婚したiげふん大好き。

23.03