柔らかな日差し。例えるなら、そんな言葉だろうか。

 

 

 

 

 

「梵天丸様ーー!!!!

うららかな陽が辺りを優しく照らす、そんな昼下がり

ちょっと目を離した隙に、また

彼は居なくなっていた。

 

 

(あれほどキツく言っておいたというのに…!全くどこへ行かれてしまったのだ!)

ぜえぜえと息を切らして

小十郎が捜しているのは、伊達家次期当主になる(予定の)梵天丸の姿。

 

 

今まで部屋でおとなしく書物を読んでいるものと思っていたが、襖を開けたそこに幼い彼の姿はなかった。

 

 

 

はぁはぁと肩で息をしながら辿り着いた、崖の上にある小さな畑

そこに小さくうずくまる影を見つけた

 

 

 

!梵天丸様っ!!!!

 

叫びながら駆け寄れば、げっ!と顔をしかめて振り向く幼顔。

 

 

「こんなところに居られましたか…!捜しましたぞ!

声色に怒気と安堵を乗せながら

その背へと歩み寄る。

 

 

っうるっせえ!べつに俺のかってだろっ?!

と、ぷいと顔を背けた彼に、小さく溜め息。

 

 

そういうわけにもいきませぬ。」

(何かあったらどうするおつもりか、)と小さく心の中で続けて、土で汚れた小さな手をとる。

 

 

!!?うわっ!?さわんなよっ」

「帰りますぞ。」

暴れる彼を引きずるような形で歩き出せば、

全身・全力で突き放された。

 

「あんな家であんなしょもつなんて読んだって、くーるじゃねーぜ!

!!

 

刺さるようだった。眼帯をしていない側の目は、こんな幼子のするような目ではなかった。

 

 

少しだけ哀しい目をした小十郎に、ふんっとまた顔を背け、座り込んでしまった。

 

大体お前はなんでそんなに俺にかまうんだよ

 

 

丸まった小さな背中が発した小さな言葉に、少しだけ少しだけ微笑みながら

 

「この小十郎、あなたの右目となり、命に変えても背中をお守りすると、誓いましたゆえ。」

 

凛と、静かに。素直に告げれば、揺れる背中。

 

 

「そんな誓い、のーせんきゅーだぜそれに、やってることはほぼ母親じゃねーかっ」

ゆらゆら。揺れる声で言い放つ彼に、ただ沈黙を返すと

 

 

 

 

 

……くれいじーだぜお前

 

蚊のような声で呟いて、その頭を垂れたから

静かに近寄り、隣に腰を降ろす。

 

「そうでしょうか?」

 

そうだよほんと変なやつだぜ

 

 

ふるふると小刻みに揺れる小さな肩に優しく手を添えたが、もう彼は振り払おうとしなかった。

 

 

 

そんな2人を優しく包むように、いつの間にか夕陽となっていた陽光が、温かな色で畑を照らしていた。

 

「梵天丸様、畑はこの世に似ていると思いませぬか」

?」

 

不思議な事を言い出した小十郎を、ふと顔を上げて見る。

静かに前を見据える彼の横顔は、とても穏やかだった

 

「どんなに荒れた土地でも、手をかけてやれば立派に畑となります。そこに育つ作物達は、一つ一つが凛と胸を張り、肩を並べる

 

「まさに、我々の目指す 泰平の世だと、思いませぬか」

 

 

目が合った優しい眼差しが、前へ向けられたから

つられて見た景色は、

優しい陽が照らす、奥州の町。

 

 

 

静かに町を眺める幼い彼の横顔は、ざわめいた葉を抜けた風のせいで髪で隠された。

 

 

 

梵天丸様帰りましょう」

 

緩やかに告げた声も

微動だにせず、前を向く彼に、ほんの少し戸惑う。

 

なんだか、彼ではないようで

 

こじゅろう」

 

「はっ!

 

 

不意に呼ばれた名前に咄嗟に反応すると、

 

凛と強い、綺麗な眼差し。

 

 

 

「お前はずっと、俺の側で、俺がCoolに築く泰平の世を見ていろ

 

 

 

柔らかな日差し。例えるなら、そんな言葉だろうか。

せめてこの場所は、彼にとって

穏やかで、安らぎを感じられる

 

そんな場所であって欲しい。

 

 

承知いたしました」

 

 

泰平の世を、築いた後も。

 

心を溶かした陽だまり

それでいて、月のように優しく強かった

 

 

(…お前が背中を護るなら、俺はお前の前を護る)

 

 

 

 

22.10