後ろの正面だぁれ?

 

 

 

 

ユウキ、ここにいたんだ。」

 

びゅおうびゅおうと冷たい風はうなり、ばらばらと不規則に雪が降る。

じわじわとくる寒さに手をこすりながら声をかけたのは、

探し歩いてきた人物。

 

 

…………

 

背中を向けたまま返事をしないのは、

返事をしたくないからなのか、

私になんか気付いちゃいないのか

 

そんなことわかりきってるけど

少しは縋りたいものよ?

ほら、今だってその合わせる手が、寒さをしのぐ為のものだったらどんなにいいか。

 

 

ユウキ!

 

少し大きな声で呼べば、苛つきが隠せなかった

いい加減気付いて。

私を見て。

もう前を見て。

 

 

アカリ?」

 

鼻を赤くした彼が振り向いて私に気付く。

 

 

あぁ、もうバカみたい。

 

 

今日、命日なんだって?」

 

あのこの。と彼が祈りを捧げていた墓石を顎で示した。

 

 

あぁ、よく知ってるな」

 

 

あぁよく知ってるなですって。

バカみたい。

 

何回私はその話を聞いたと思ってるのよ。

狂ったようなあなたから

酒に溺れたあなたから

うわごとであのこの名を呼ぶあなたから

 

そんなこともわからないなんて

バカみたい。

そんなに後ろばかりみるなら

後ろに立ってる私のこともみなさいよ。

 

 

いつもいつだってあなたの背中を追いかけて、ずっとあなたを見ていたのに。

 

 

あぁ、ホントにバカみたい。

 

 

もう、5年も経つんだぜ?わかんねぇよなぁ

 

 

微笑んだ彼に、だけど笑顔はなかった。

 

 

歳月を認識出来ているなら、どうして今を見ようとしないの?

あなたはずっとここに縛り付けられて

なんて哀れな。

 

あぁ、なんて哀れな

 

どうしてどうして

どうしてどうして

 

 

「俺がこの島に来て1年目に会ったんだよなぁ」

 

 

あなたはあのこのことばかり

 

そう、島に来て1年目なら、8年前ね。よく覚えてるわ。私もあなたをおいかけて

あれは、4年前だわ。

 

 

ねぇ、なのに、それなのにあなたは

 

 

どうしてどうして

どうしてどうして

 

 

 

どうして

そんなに変わってしまって。

どうして

私のことなんか覚えてなくて

どうして

あのこがそんなに心を占めて

どうして、

あなたは、

どうして、

私は……

 

 

 

「あいつすげぇおっちょこちょいでさ」

 

 

それも聞いたわ、もう何回も。

お茶をかけられたんでしょう?

それが出会いで。

 

 

あぁ、あのこの話はこんなに聞いて

私の気持ちは何も伝わらないのね

 

理不尽なものね。

 

 

救いを求めるように仰いだ空は、白く煙って何も見えなかった。

 

 

ただ、舞い降る雪を見上げて見ると、まるで空に昇っているみたいだなんて、

柄にもないこと考えて。

  

「私は、雪が嫌いよ。」

 

 

閉じ込められた彼に聞こえる筈もない本音

 

 

 

雪は嫌いよ。

真っ白で眩しくて。

まるで純真無垢な光のようだから。

そして、それでいて冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

お願いだから、私を見てよ。

 

 

 

 

 

 

………ヒカリ

 

 

 

 

 

あなたを置いていった、そんな少女なんかじゃなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の後ろに立つ少女のその想いは、届くことも、実ることもないでしょう

 

 

 

籠の中の鳥は

もう、出られない

 

 

 

だって、出会わないから。

 

 

 

 

―――――――――――

後ろの正面だーぁれ

 

 

後ろに立っちゃうと、気付いてももらえないみたいですね。

 

22.10