「私の愛はぁ〜…、軽いものじゃないんですよぉ〜う!!」
白、白、白。いつ来ても一面雪景色。そこを抜ければ天へ続く長い階段…の上にある、ゴツゴツした岩肌の寒々しい景色。それがここ。そんな「神の座(くら)」で、ヒカリは酔っ払っていた。
そしてうんざりとした表情でヒカリの話を聞く神さま―…。
何故そんなことになったのかというと…
数時間前、ヒカリはいつものように神さまの好物であるリンゴを届けに来た。ただ今日は、いいリンゴにならなかったので、カクテルにしてみたのだ。
以前カクテルにしたら喜ばれたので、安全圏だと思っていた。
が、
今日は彼はそんな気分ではなかったのだ。
泣く子もさらに泣く剣幕で彼はキレた。
ただでさえ普段の無表情な彼も充分怖いというのに
鋭く冷たい目の瞳孔を開いて、怒号を浴びせる彼は、それはもう怖かったという。
何で私怒られてるんだろう?涙目になりながらヒカリはふと思った。
いつもみたいにプレゼント持って、お話しようと思って来ただけなのに…。
献上品(プレゼント)は彼の好物なのに!気分だなんてそんな横暴な!!理不尽だわ!!!!
自分に非はないと気付いてしまったヒカリは、黙って聞いていられるわけもなく、きっ!と睨み返して、負けじと叫んだ。
「何好き勝手言ってくれてるんですか!神さまのばか!わがまま!!もう知りません!!!こんなの、こうしちゃいます!!!!」
そしてヒカリはカクテルを…
飲んだ。
お酒にはめっぽう弱い彼女は、そのたった一杯で、完全に酔ってしまったのだ。
「…!!?…おい!!?」
ヒカリの意外すぎる行動にビビった神さまは、困惑しながら声をかけた。が、彼女の目はうつろで、焦点が定まっていなかった。
そして彼への説教を始めた彼女に、さすがに自分も悪かったと思った彼は大人しく聞くハメになったのだ。
そして今へ至る。
「あなたには、『愛』がありますぇん!!」の一言から、話は愛についてに変わり、かれこれ2時間近く話し続けている。
(…………長い。)彼は少々苛ついていた。
そもそも気が短い彼がよくここまで耐えたと思っていいだろう。
(…というか我に愛がないだと?馬鹿ものめ…!我がただの人間を斯様に毎日毎日 座(くら)へと上がるのを許すと思っているのか!この愚図め!鈍感め!!)
心の中で罵声(愛?)を浴びせ始めた彼が、そろそろ再び噴火しかけた時、彼女はこう叫んだ。
「私の愛はぁ、軽いものじゃないんですよぅ!」
ぴたり。ものすごく興味が湧いた彼は、怒鳴ろうとした動きを止めた。
(…ほぅ?)何となく居住まいを正した神さまに気付く筈もなく彼女は続ける。
「私の愛は『生涯の愛』なんです!1人の人を生涯愛すんです!運命の愛です!」
力説した彼女の言葉を、彼は逃さなかった。
「ほう…」
不敵にニヤリと黒い笑みを浮かべ、彼は立ち上がった。
背の高い彼はヒカリから完全に日光を遮った。
「?ほぇ?」
急に視界が影で暗くなり、不思議に顔を上げた。
「ならばヒカリ、その生涯の愛とやら、我に捧げよ。」
高らかにそう告げた(命令した)彼は、いつもの威厳ある神さまだった。
ただし顔はニヤけていた。
「ふぇ?」
「うむ、そうと決まれば善は急げだ。ゆくぞ、ヒカリ。」
全く話がわかっていないヒカリの手をつかみ、役場へ向け歩きだす。
人間界など全く興味はなかったのにヒカリのせいで覚えてしまった慣用句を使っていることに、彼は気付いているだろうか?
「は?らんれふか(なんですか)かみさまぁあ〜」
ずるずると引きずられる格好になったヒカリは酔いがさめた時には所帯持ちになっていたという。
災い転じて福となす
‐ケンカから始まる恋物語‐
(ふむ、思いもよらぬ献上品が手に入ったな)
(すいません神さまこれどーゆーことですか)