「ヒカリ、は、俺が不気味じゃないの…?」

 

セミとカエルの輪唱が心地よい、そんな夏の夜だった。

 

「…え…?」

 

彼の家、真っ暗な中窓枠に切り取られた青白い月光が差し込むその中に座り、夜中の町を眺めていた。

望遠鏡に背を預けた彼が唐突にそう切り出したから

その言葉の意味がいまいちよくわからなくて振り向けば、床に反射した灯を溜めた瞳がこちらを見つめていた。

その目はなんだか見たことないくらい哀しくて神秘的で、いつもの魔法使いさんじゃないみたいだった。

 

「魔法使いさん?」

 

誰か入れ替わってるんじゃないかとか、どうかしてしまったのかと一旦思うと怖くなって、何か言わなきゃと結局その名前しか浮かんでこなかった。

 

「…ごめん…変なこと聞いて…」

 

ふ、と息をついて頭をかきながらそう言った彼に、あ、いつもの魔法使いさんだと思って息をつく。

 

「どうかなさったんですか?」

 

りん。小さな音で風鈴が鳴る。

 

「…いや、ちょっと気になった…だけ」

 

それは私が勝手に持ち込んだ風鈴で、これもこれもと持ってくるうちに大量になってしまったものの一つ。彼はその全てをここに下げてくれた。

 

ちり、りん。その隣の風鈴がなる。歪な金魚が揺れる。

 

「昔の事…思い出した…。人間はみんな俺を不気味がった…、ヒカリみたいなのは初めて…」

 

りり、りりん。半分ほど開けてあった窓からふーっと入り込んだ風は、優しく私の前髪を分ける。

 

りり、りり、とひらひら下がるプラスチックが暴れ隣のそれとぶつかり合う。その様を見つめながら背中越しに問いかける。

 

「風鈴って、不思議じゃないですか?」

 

「え、?」

 

今度は私の問いに魔法使いさんが戸惑う番。今夜はやけに問いかけが多いなぁなんて。

 

「同じ風を受けているのに、ひとつひとつ鳴り方が違うんですよ。

一斉にちりんと鳴ったりしないんです。」

 

ちりり、りりん。輪唱するかのように前後バラバラに揺れるそれは、ブランコのように一緒に動くことはない。

 

「だから、人間も人それぞれ、違うんじゃないでしょうか。」

 

そう言って振り向いた私に、魔法使いさんは泣きそうな顔で笑った。

 

 

 

想い、風鈴

-過ごし易き夏の夜-

 

 

そんな君だけの揺れ方に、惚れたのかもしれない。