時を超えても、私はお待ちしております。
あなたへと、この歌を歌いながら。



 
「夏の音は、綺麗だな。」
 
 

今は冬だと申しますのに、隣の方は突然にそう言いました。
同意を求めるような語尾でありながらそのような雰囲気でなかったことと、彼の口から「綺麗だ」と紡がれたことに驚き、咄嗟なにか言い返すことができませんでした。
 

「何をとっても、美しい」
「夏の、音…でございますか?」
 

 
そこにない物をまるで在るかのようにいとおしみ惚ける言を繋げた彼に、先の言を確かめるような言葉しか私は言えませんでした。
 

 
「あぁ、蝉の声、蛙の鳴き声…。あの、風鈴と言うやつもそうだ」
 


そうだろう、とこちらをお向きになった彼に、えぇ確かに。あなたの挙げたそれらはどれも美しいでしょう。ですけれどこんな高いところにお住まいのあなたに、まさかそんな声が聞こえていたとはと、私は目を丸くいたしました。
 

 
「春にも美しい音は溢れております」
「む、貴様は春が好きなのであったな」
「はい、私は春が待ち遠しくございます」
 
 


何とはなしに反論しました言葉に彼が私の春を好きな事を思い出してくださった事が何とも嬉しく、つい頬に笑みを浮かべてしまいました。
けれど彼は、やはり夏の音が一番美しいと、そう仰いました。
 


 
「春の一番という大風も、秋の台風というやつも、冬の木枯らしというのもどれも我は好かん」
 


 
なぜですと聞けば、春の大風は煩く、秋の台風は滅入り、冬の木枯らしは痛いと申されました。
人智を以てはかれない方の、まるで人間らしい返答に笑いますと、彼はその鋭き瞳で私を制しました。
 


「それなら、夏には稲妻と言うものがございます」
「稲光は良い。何とも潔いではないか。」
 


 
もっともな反論をしたと言う私の勢いは、その一言だけですぼんでしまいました。
 



「よく、わかりません」
「わからずとも良い」
 



 
そんな、矛盾しているようでしていないような不思議な言葉と、寒き冬に凍える私1人をのこして、彼は暑く美しい夏へ旅立ちました。
 
 
 








 
 
冬に消えた夏の人
‐それはある日突然に‐
 
 





 
 
私は春が好きだと申しましたのに
 
このような季節に置いていかないでくださいませ
 


2309神様とヒカリたん。