風は、死ぬのだろうか

と、思った。

 

 

 

 

 

ざあざあと厚く繁った葉を揺らし、暖かい風は2人の間を吹き抜けていった

 

 

魔法使いさん、」

うん?

 

さらり。

丸みのある銀色が、風に踊って

振り向いた彼は穏やかな空気を纏っていた

 

 

ざああ。頬にあたる風はこんなにも優しい。

 

静か、ですね。ここは。」

 

なんてことはない言葉。

ただ、穏やかに葉を眺める彼に、話し掛けたかっただけ。

彼と同じ時間を共有していると確認したかった下らない意識。

 

 

だって、だって

確かに同じ空間を共有しているのに、

目の前にいる彼も、この景色も、なんだかすごく幻想のようで

消えちゃうんじゃないかって

 

 

……うん、か」

 

にこりと微笑んでかるく首の重心を傾けた彼は、とても優しい人だと思う。

 

 

「魔法使いさんは…―!

 

と、急な突風に反射的に目を閉じる。

顔にかかった髪が、すっかり払われた感覚

 

いたずらするように髪を掴んで走っていった風は、高く舞いあがって手を離した。

 

 

ふるふると首をふれば、あぁ、ちゃんと元の位置に帰ってくる髪。

 

 

俺は、……風になりたかった、」

 

 

ひらり。追い掛けるような微風に乗った言葉に、目を戻す

 

 

風ですか?」

……うん、

 

照れたような困ったような

そんな顔で彼は頭をかいた。

 

「風は……自由、だ。どこへでも、いけるし誰にも傷つけられない風を傷つけることは、できない

 

確かに、風は自由だ。

風になれたらどんなにいいだろう。

好きな人を追い掛けて、

好きな人の髪を揺らして、

鳥や葉や水と戯れて、

雲を動かして、

世界を優しく動かす。

疲れたら休み、

好きな場所で眠る。

 

あぁ、なんて素敵なんだろう。

 

 

だけど、

 

だけど。

 

だけど、今は、なりたくない

 

 

ざあああっ。

歌い続ける葉と、踊り続ける彼の髪。

色とりどりの、緑と銀と、そして青。時々見える、無花果色。

 

そんな空間で見つめた彼の瞳は、優しく細められる。

 

 

風じゃ、ヒカリと話ができない」

 

 

ざあああっ。

ざわついたのは、木々か茂みか

あぁ、それとも

 

 

 

風は、死ぬのだろうか

と、思った。

全てが廻り廻るなら、風もいつかは?

だけど風はきっと寝ているだけだから

私は彼と、同じ時間、同じ空間を過ごし、同じように終わりたい。

 

 

だから私は、

 

 

 

風が見える丘

生まれ変わっても

 

(ずっと、このまま)

 

 

22.11