ケセラン・パサラン、ケセラン・パサラン。
冬空から聞こえた歌は、幸せを運んだ。
「わぁあっ!雪ですぅ!」
ざくっざくっきゅっきゅっ。真白に降り積もる雪に長靴を鳴らせてはしゃぐ彼女は、両手を天に広げた。
「…ケセランパサランみたいだね…」
そのまま飛んでいってしまいそうな彼女に不安になり、思わず話題を持ちかける。
「ケセランパサラン…?」
きょとんという目で振り向いた彼女の鼻が赤くて、ずれていた耳当てを直してあげる
「うん…謎の…生物…幸せを、運ぶ…」
できた。と耳当てから手を離せば、彼女はふわりと笑った。
「幸せですか!素敵ですねぇ!!宇宙人か何かなんですか??」
「ふふ…、違う、よ…。実在…する…。真っ白な…小さい…生き物…」
「えっ、実在するんですか!?」
驚く彼女に頷けば、何故だか大喜びして、もっと教えて欲しいとはしゃぐ。
ケセラン・パサランは実在する。一体捕まえれば次々に見つかって、増殖する。
そして、彼らは幸せを運ぶ。
「普通…のは、たんぽぽの…綿毛に、よく似てる…。ちょっとだけ…アメンボにも…似てる、かも…。大きいのは、もっと…密集した…けばけばしてる…真っ白な…もの…」
「へぇえ!へぇえ!!すごいです!不思議です〜!」
かわいいかわいいと言う彼女の目はきらきらと、未だ謎多き生き物に馳せられていた。
「…だから…、雪は…似てると、思って…。」
はらりはらり。羽のように舞い降りる雪は、まるで降り注ぐ幸せの白い生き物のようだった。
「…そうですね…」
ふぅと感慨に彼女がついた溜め息は、空に昇って空気に溶ける。
「じゃあ、雪は幸せを運ぶんですね」
降り積もる雪が、幸せだとしたら。あぁ、確かにそうなのかもしれない、なんて。
ケセラン・パサラン、ケセラン・パサラン。
冬の空から聞こえた歌は、幸せを運んだ。
その歌は、雲から剥がれ落ちる彼らの、別れの歌なのか、感謝の歌なのか。
降り注ぐ羽と降り積もる幸せに、俺からも歌を送ろう。そして、君の手をとろう。
「…俺は、ヒカリに雪をあげられるかな…?」
俺が頬笑むと真っ赤な顔で嬉しそうに笑う、彼女自身が案外そうなのかもしれないな、なんて。
幸せのケセラン・パサラン
‐ほら、ここにも幸せを運んだ‐
やっぱり彼らは、実在するみたいだ。
ほら、だって今この時が―
22.11