ケセラン・パサラン、ケセラン・パサラン。

冬空から聞こえた歌は、幸せを運んだ。

 

 

 

「わぁあっ!雪ですぅ!

 

ざくっざくっきゅっきゅっ。真白に降り積もる雪に長靴を鳴らせてはしゃぐ彼女は、両手を天に広げた。

 

ケセランパサランみたいだね

 

そのまま飛んでいってしまいそうな彼女に不安になり、思わず話題を持ちかける。

 

「ケセランパサラン?」

 

きょとんという目で振り向いた彼女の鼻が赤くて、ずれていた耳当てを直してあげる

 

「うん謎の生物幸せを、運ぶ

 

できた。と耳当てから手を離せば、彼女はふわりと笑った。

 

「幸せですか!素敵ですねぇ!!宇宙人か何かなんですか??」

「ふふ、違う、よ。実在する。真っ白な小さい生き物

「えっ、実在するんですか!?」

 

驚く彼女に頷けば、何故だか大喜びして、もっと教えて欲しいとはしゃぐ。

 

ケセラン・パサランは実在する。一体捕まえれば次々に見つかって、増殖する。

そして、彼らは幸せを運ぶ。

 

「普通のは、たんぽぽの綿毛に、よく似てる。ちょっとだけアメンボにも似てる、かも。大きいのは、もっと密集したけばけばしてる真っ白なもの

「へぇえ!へぇえ!!すごいです!不思議です〜!

 

かわいいかわいいと言う彼女の目はきらきらと、未だ謎多き生き物に馳せられていた。

 

だから、雪は似てると、思って。」

 

はらりはらり。羽のように舞い降りる雪は、まるで降り注ぐ幸せの白い生き物のようだった。

 

そうですね

 

ふぅと感慨に彼女がついた溜め息は、空に昇って空気に溶ける。

 

「じゃあ、雪は幸せを運ぶんですね」

 

 

降り積もる雪が、幸せだとしたら。あぁ、確かにそうなのかもしれない、なんて。

 

 

 

 

 

 

ケセラン・パサラン、ケセラン・パサラン。

冬の空から聞こえた歌は、幸せを運んだ。

その歌は、雲から剥がれ落ちる彼らの、別れの歌なのか、感謝の歌なのか。

降り注ぐ羽と降り積もる幸せに、俺からも歌を送ろう。そして、君の手をとろう。

 

俺は、ヒカリに雪をあげられるかな?」

 

 

 

俺が頬笑むと真っ赤な顔で嬉しそうに笑う、彼女自身が案外そうなのかもしれないな、なんて。

 

 

 

 

幸せのケセラン・パサラン
ほら、ここにも幸せを運んだ

 

 

 

 

やっぱり彼らは、実在するみたいだ。

 

ほら、だって今この時が



22.11