まずとある町に着いた

 

そこの人達は俺が話し掛けると驚いた顔をした

 

お前さんは、年をとらないのかい?

 

何でこの人達がそんなこというのか、なんで俺の事を知っているのか

全然わからないけれど、

ただ、なんだかこの場所は

とても温かくて優しくて懐かしい

懐かしいけれど、どうしてかとても切なくなって

ここにはいちゃいけないと思った。

 

 

次に着いた草原では、小さな家が建っていた

おじゃましますと入ってみたら、美味しそうな匂い

 

誰?」

 

栗色の癖毛の住人が、怪しむ目で俺を見た

一瞬若く見えたけれど、随分歳がいってるようだった

 

 

こんにちは、」

 

挨拶した俺を見ると、凄く驚いた顔を見せた後、すぐ優しいような悲しいような笑顔を見せた

 

 

初めましてかな?」

こちらにどうぞ、と椅子を引いてくれた彼は、

何だかとても知っている気がした。

 

彼はコックをしているらしく、彼が出してくれる料理はとても美味しかった。

ただ、イカは嫌いだから残そうとしたら凄く怖かった。

 

 

料理を食べながら、自分が何故旅をしているのか彼に語った。

 

 

俺は何か大切な事を忘れてしまっていて

それを見つけるために旅をしているのだと。

 

 

静かに聞いていた彼は、そっか、頑張ってねと微笑んだ。

 

 

お礼を告げて、出ようとしたら、彼はオレンジの香りがするパンを持たせてくれた

 

「きっと見つかるよ。案外近くにあるものだから。」

 

 

驚いて、何か知っているのかと聞こうとしたら、

彼はもういなかった。

 

辺りには、オレンジの香りしか残っていなかった。

 

 

しばらく歩くと、急に雨が降りだした。

急いで近くにあった大木に背を預ける。

 

 

やみそうにない、かな

 

しばらく休憩にしようと座り込んだ。

 

 

真っ白な雲からぱらりぱらりと降る雨を眺めながら、

思い出せない記憶に想いを馳せた。

 

 

なぜ、俺は忘れてしまったのだろう。

なぜ、こんなにも思い出せないのだろう。

 

 

あぁ、確か、とても温かくて優しくて美しいものだった気がする

 

そんなことを考えていたら重くなってきた瞼を静かに閉じることにした

 

 

―‐―‐―‐―‐

しばらくして目を覚ますと、すっかり雨は上がっていた。

 

 

まぶしいな

 

空を見上げれば、さんさんと光をはなつ、太陽。

 

 

「  、」

 

なんだろう

 

今、

とても懐かしい気分がした

 

 

「  リ、」

 

 

そうだ

 

俺が探してきたもの

 

 

確かなもの

 

 

ヒカリ……

 

 

それは彼女だ

 

 

あぁ、あぁ思い出した。

未来を表すような、その名前こそ、記憶だった。

 

 

いつだって柔らかく微笑んで

人間なのに俺に優しくしてくれて

俺にたくさんの、楽しいを教えてくれた

たくさんの幸せをくれた

 

 

あぁそうだ、なぜ忘れていたのだろう

 

妻になってくれた彼女の、愛していた牧場

町の人達

彼女を好きだったコックの、「幸せにしないと、ひどいよ?」という涙混じりの脅し

彼は、オレンジが好きだった。

 

 

無花果色の綺麗な髪も白くなった彼女の、最期の言葉

 

 

あぁ、どうして忘れていたのだろう

 

 

両手を広げて仰いだ空には、

虹がかかっていた

 

 

「ヒカリ、ヒカリ思い出したよ

 

そうだ、俺は生きていかなくちゃ

 

彼女としたあの約束が待ってる

 

 

「ゲイル、忘れないで下さいね?」

 

どんっと足に何かが当たった

見れば、小さな女の子

 

 

「お兄ちゃん、どうして泣いているの?」

 

しゃがみこめば綺麗な目とまっすぐに合う

 

そうだな、幸せだからかな?」

 

 

「私は必ず、」

 

「そっかぁ!だから虹さんが出てるんだね!!

 

 

「ふふっ、そうかそうかもしれないね………

 

「うん!そうだよ!!

 

きらきらきら、

輝く太陽。

輝く虹。

そして輝く少女。

 

どこか懐かしい、この名前は

 

 

「君の、名前は?」

 

 

「ヒカリ!!!!

 

 

「生まれ変わって、会いに来ます」

未来を表す言葉に似ている

 

 

 

記憶を辿る旅

巡り愛

 

 

全ては、つながっていた。

 

だってそれは、未来を表すから

 

 

 

 22.10