「私は、生まれ変わったら水になりたいです。」
カラリン。水滴のついたコップを揺らせば、氷が喧嘩する。
「………、水…?」
なんの表情もなく頬杖をつきながらコップを揺する少女に聞き返せば
ぱたり。赤い栗色の目と、でくわした。
あぁ、彼女の目はこんなに赤かったのか、と思った。
「水は、異質なんですよ。」
がたん。椅子を引いて立ち上がるため彼女は顔を下げた
その姿はなんだか俯く姿に似ていた
「…水、が……?」
こんなに身の回りにあふれかえっているのに?
こちらに歩いてくる彼女に目を合わせたいのに、なかなかこちらを向いてくれない。
「えぇ。化学界の常識をことごとく覆すんですよ」
ぴたり。適度な距離というには近すぎる距離で彼女は止まった。
ようやく、目が合う。
あぁやっぱり赤いと思ったその目に、泣きそうな顔をした男が写っていた
なんで君は泣きそうなんだ?
異質という言葉が怖いからか?
「………例えば………どんな?」
眺めていれば、その男が言葉を発した。
ゆらり、揺れた。
そして少女は静かに紡ぐ。
「ふふ、分子量が18なのに、沸点が100゜Cという驚異の結束力を持っていたりとか、」
静かに歪む目元が、微笑みというのか
「固体になるときに逆に体積が増えるという、万物の流れに逆らう力を持っていたりとか…」
彼女が何を言っているのか、何が言いたいのか、よくわからないけれど、
ただ、あぁきっと彼女は泣くだろうなと思った
近くはないけれど、決して遠くない距離で、彼女を見てきたから。もう よく、わかる。
その距離がとても心地よかった。化け物だのなんだのと、人間達に虐げられてきた俺に、初めてできた人間の友達。
とても温かくて優しい距離だった。
だから、だけど、それ以上には近づいては
ごつん。目の前の彼女が消えて、右肩に、重み。
今まで味わったことがない、重さだった。
状況を理解したのは数秒後。
肩に額を押しつけてきた彼女は、なんだか震えているようだった。
あぁ、入り込んでしまった。
「水、は、異質なんですよ…」
この恋みたいに。
そう言外に言われた気がして
今まで見ないふりをしてきた疑問を突き付けられた衝撃を感じた。
あぁきっともう戻れない
今の言葉が幻聴だとしても
その思いがどちらのものなのか
思わず彼女の背に手を回した。
生まれ変わったら水になりたい。異質であって受け入れられる。どこにいてもあなたにあえて、どこにいてもあなたに欲してもらえる、
水になりたい。
だってこの恋は叶わないから
その恋、ニトログリセリンにつき
‐少しの刺激で全てが壊れる‐
近づいては、ならぬ。