元気がない。

 

元気がないと思った。

 

久々に会いたいと電話をよこした、僕の彼女であるヒカリとオカリナ亭で待ち合わせをすれば

 

 

久しぶりです

「あああ。?ヒカリ

 

 

席に着いてから注文を終えても彼女は俯いたままだった。

 

 

一体どうしたというのだろうか

 

確かに不本意とはいえ、長くほったらかしのようにしすぎたとは思う

女子というのはいつもいつでも側で想いを言葉に伝えていて欲しいという生き物だと、ユウキから聞いた

しまったやはりここ最近の音沙汰の無さはまずかったか

 

 

っ、ヒカリ…!

「ギ、ギルさん…!!!!!!!

 

悶々と悩んで、振り絞って長い静寂を裂いた言葉を、真っ赤に俯くヒカリが遮った。

 

 

「ななんだ?」

 

面食らった僕に、彼女は震える声で続けた。

俯いていてもわかる。彼女は泣きそうだ

 

 

「お話があるんです

 

 

あぁしまった。

 

 

やってしまった

 

恐らく彼女が今からするのは別れ話だろう

 

 

どうしよう、どうしようか、

どうしたらいいのだろうか

 

僕は、僕はまだ―…

 

 

ぐるぐるぐる。

頭の中はパニックで

ただ呆然と汗を流す僕に、

彼女は次の言葉を開く

 

 

あぁ、まずい…!

 

 

ユウキと女神様は、毎日泉でお茶をしているそうです

 

 

 

 

………………………は?」

 

 

 

ぽかーん。そんな形容詞がぴったりな僕の、きゅっと閉じていた目は段々と不審なものを見るような

 

 

?あああ、そうか

 

そう答えるしかない僕は

何とも言えない複雑な気分だった

 

 

なんだなんだ何が言いたいんだ

はっ…!僕と比較して僕の行いを責めようというのか!

い、いやいや、彼女はそんな人間ではない

 

だったらなんで今そんな――

 

 

「キャシーちゃんとオセさんは毎日一緒に乗馬してるらしいです

 

ぽつりぽつり

変わらず続ける彼女は少しだけ顔をあげた。

耳まで赤い

 

 

「それにそれにあのタケルくんと魔女様ですら…!

 

「?」

 

急にまくし上げるように言った彼女は、ぐっと言葉をつまらせた。

 

ヒカリ?」

 

 

伺うように顔を覗きこむように見れば

気の毒なくらい真っ赤になった、涙目の彼女

 

 

「あの2人ですら、――――、」

 

 

ぼそぼそぼそ

呟くように放たれた言葉の後半は、かわいらしいクロスのかかるテーブルに消えた。

 

 

「?なんと言ったんだ?」

 

 

少し身を乗り出して問えば

 

 

少し大きくなった、それでも小さい声を

ようやく拾える。

 

 

…―――。」

 

 

きょとんとした僕は思わず堪えられなかった笑いをオカリナ亭に響かせた。

 

 

元気がないと思った。

あぁ、そうだな

僕はこんなに可愛い彼女に

計り知れない寂しさを味わわせてしまったみたいだ。

 

 

 

 

手を繋いだんだって

勇気もなかった僕が悪い

 

 

 

(今日、店を出る時、さりげなく手を繋いでみよう)

 

22.10