じめじめした密林のある庭をぬけて 彼は毎日アタシの家に来る。

 

ガチャガチャパタパタ

 

食器とスリッパの音と

甘い香りに満ちた部屋でアタシはただじっと手際よくテーブルに並べられるそれを眺めていた。

イスに凭れかかっている背骨が痛い。

組んだ腕と、組んだ足。

偉そうに、そして不機嫌な顔で座るアタシに、タケルは走り回っていた足を止めた。

 

 

……魔女様機嫌悪い?」

不安そうな顔から発せられた言葉は、もう状況そのまんまで

なにそれ

あんたなんかもっと別なこと言えないわけ?

さらに眉間の皺を深くしたアタシにタケルがびくっとなるのがわかった。

そんなことより今あんたが持ってるその湯気の立つティーポットの方が気になるわ

それこの魔女サマにちょうどいい温度なんでしょうね

 

 

「いいから早く紅茶だけでもちょうだいよ」

アタシの前と台所を何往復もしてるくせに、相変わらずテーブルには可愛らしいクロスと、黄色い花のささった花瓶しかない。

 

っ、今置くとこだったよ」

なによなによ反抗期?

別に嫌なら毎日毎日来なくていいわよ

てかなんで来るわけ???

 

 

カチャカチャと音をさせて

アタシの目の前に温められたカップと、ティーポットが置かれた

それをタケルが注()ごうとしたから

「いいわよいいわよアタシやるわ。それより砂糖ちょうだいよ。」と制止して。

再び入った注文に少しだけ彼がむっとなるのが見えた。

マナー違反だって知ってるけど

ここはアタシの家だもの。アタシがルールだわ。

 

 

何も言わずに砂糖を取りにいったタケルの背を目で押しながら、

こぽこぽと香り高い紅茶を注いだ。(そそいだ)

カップを持って口に近付ければ

茶葉の香りが脳まで広がる。

うん温度もちょうどいいみたいね。

一口飲んで少しだけ彼を誉めた。もちろん口には出さないけど。

毎日通ってるんだもの、そろそろわかってくれなくちゃ困るわ。

 

 

「はい砂糖だよ」

丸いガラスのビンに入った角砂糖をごとりとテーブルに置いて。

なに疲れた顔してんのよ

 

ホント何考えてんのかわかんないわ

嫌なら来なくていいのよ?」

カップに口をつけながら呟いた言葉はくぐもって

「?えっ、何?」

聞こえなかったみたいで、ちょっと

ちょっとよ?

ほっとした

 

 

別に!毎日なにしに来てるのかしらって話!

大げさにため息をついて実際思ってた事を言った。

期待した事なんて返ってこないってわかってるけど

ってか別に期待なんてしてないしする物もないけどね!

 

チラリとタケルを盗み見れば

……と」

真っ赤になって返答に困っていた。

なによなによその反応???

ちょっと予想通りで予想外な反応に、アタシまで赤くなってしまった。

かわいいとこあるじゃない!なんて思う余裕もなかった

 

 

びっくりしてアタシも黙っちゃったから

重い沈黙が部屋を包んだ

 

ちょっとやめてよアタシこういう空気たえられないわよ

仕方ないからなにか喋ろうと思って。

魔女サマに会いにだよとか言えないわけ?あんたホントにユウキの弟なわけ?」

口が滑った。

 

 

しまったぁ今のは完全にNGだわっ

静かにカップを取って、目線だけ見上げれば

俯いてわなわなと両手に拳を床に向けて作ってる彼。

あちゃあ〜やっちゃったわ

 

「あ〜えっとタケル、」

めんどくさいわ正直。でもさすがに今のは悪いから謝ろうと思ったのに

思ったのに

「なんだよ僕だってね!!!これでも前にいた町じゃユウキ兄さんみたいにめちゃくちゃ女の子口説きおとしてたんだからね!!

 

明らかな見栄を張ったから。

………

謝罪が出るはずだった口は固まるし、眉間には皺がよるし、胃が笑っちゃえ笑っちゃえと震え始めてしまった

 

なによめんどくさいわ!あんた今すごいかっこ悪いわよ!!

へーへーふーん

いろいろ動揺したけど、平静を装ってそう言えば、

「信じてないでしょっ!!!?」

ムキになって返してくる

 

 

なんだかもう胃も冷めてきて

飽きてきて

「えー別に

と花柄のカップを指でなぞった。もうだいぶぬるくなってしまった

「ホントなんだから!すごくいやけっこううまかったんだからな!

それでも必死になる一方の彼に、意地悪を思いついた

 

じゃあ、やってみせなさいよ」かちゃん。カップを置いて、真っすぐに目を見れば

………は?」

素直に固まる彼。

 

 

「今、目の前にいるアタシを。この偉大な魔女サマをモノにしてみなさいっつってんのよ。」

 

 

追い討ちにニヤリと笑ってみせれば目を丸くして口を開けたタケルに会えた。

 

これはこれから毎日飽きなそうね

久々に声を出して笑いながら、密かにそう思った。

 

 

 

真っ赤になって俯いた彼が小さく「ゴメン」と呟いたのは、数分後のこと―…

 

ロドスの町

さあ、この胸を射止めたまえ

 

 

(なんかイソップ寓話に似た話あったわね〜)

(知らないけど想像できるのがムカつく!!)

 

 

 22.09