些細な日々が、幸せなんだと思う。
 


 
「先輩の手、かたいですね」

 
俺の足の上にちょんと座る彼女が、俺の手をとってそう言った。
頭撫でられんのがいやだとか言われんのかと思ったけど笑いながら振り向いて、俺の手を撫でる彼女に安心した。

 
「働いてる人の手です」
「そうか?」
「はい!頑張ってる人の手ですよ」

 
ぷみぃと笑った彼女が可愛すぎてとりあえず抱きしめた。手を軽く振りほどくような形になっちまったけど抗えなかったんだからしょうがねえ、と、思う。多分。

 
「みー…」
 

すぽんと収まった腕の中でもそもそと動く感じがした後、きゅ、と手を握られた。
そんな柔らかい刺激に顔をあげると、俺の手を両手でふにふにと押して彼女が遊んでいた。
まぁふにふにっつーのは彼女の動きの方だったんだが。

 
「なんだよ、そんなに俺の手が好きか?」
「はい!」

 
にぱと笑ったあとまたすぐ手をいじり始めた彼女に、少し頭をあずけてみる。
 

柔らかい黒髪にうずまり、頬を撫でる感覚に目を閉じれば、ふわりと優しい薫りがした。
腹に感じる温もりと、どくんどくんと混ざり合う鼓動が心地よくて
少しだけ回した腕の力を強めた。
俺のひとまわり…かふたまわりか…いや多分それより小せぇんじゃねぇかっていう手が、それでもまだ俺の手につきっきりだったから
(手ばっか見てんじゃねぇよ)なんて幼稚な嫉妬を引き出した。
 

「、」
 

ぎゅ。彼女の名前を呼び、いじられていた手を強く握れば、簡単に捕まる小さな手。
 
「み、先輩?」

 
なんですかと振りむいた彼女に、キス。

 
「ふわ、」

 
驚いて跳ね上がるその肩も、あどけねぇ舌足らずな声も、瞬く間に染まる頬も、何事かとまんまるくして俺を見つめる黒い目も
全部全部俺のモンだ。
 

「俺の手、好きか」
「は、はい…」
「はは、そうか」

 
 
 
些細な日々が、幸せなんだと思う。
実はあちこちに落ちていた幸せの欠片を、気付かせてくれた彼女が拾い集めて俺に手渡してくれる。
小さな変化が、俺を大きく揺さぶった。
 

 
「じゃあ、」
「?」
「俺の手と、俺、どっちが好きだ」
 
 

 
俺の心を静かに犯した犯人を、そんないじわるでいじめてみたり。
 
 
 

 
 





この手のひら分の幸せ
-幸せの詰まった手で愛を降り注ぐ-
 
 



せんぱいですと真っ赤になって答えた彼女を、そのまま押し倒した。
 
お前は拾って来すぎるから
今度は一緒に拾いに行こうぜ
 
23.10