「魔法使いさん!見て下さい!

 

きらきら。輝く目で彼女が指差した先は、空。

何百年振りに見た午前の空は、どこまでも高くて。

あぁ、こんなに綺麗だったかな、なんて。

 

 

 

「凄いですねぇっ!ここは絵の具をべーったりつけたみたいな濃い空色で、向こうはすーっごく薄めた空色みたいです!!

 

いちいち空を差し示して語る少女にかかる空は確かに、

見上げたそこはいかにも「空色」。そして遠く見える先の空は、限りなく澄んだ空色だった。

 

 

うん、ホントだね、」

「ですよね?!うふふっ!グラデーションってやつですよね?」

 

こくん。頷いた俺にはしゃぐ彼女は、さらに言葉を続けた。

 

「自然界でも存在するんですねぇ〜!すごく不思議じゃないですか!?なんだか嬉しくなってしまいます!

嬉しく?」

「はい!あ、大気にも色があるらしいですよ!凄いですよね〜

 

はぅ〜と想いを馳せるように目を細めた彼女の言葉は、僕のパレットをぐちゃりと掻き混ぜた。

 

 

「違うよ」

「?」

 

ぽたり。真っ白なキャンバスに零れた色は、緑のようで穏やかでない、黒。

 

「、あれは光の散乱や吸収目の錯覚でしか、ないつま、り、存在しない。」

 

ぱたり。瞬かれた苺色は、なるべく見ないようにして。

 

 

なにがホント、か、わからない視覚が信じられないなら何も信じられない。」

 

 

ねぇ、そうだろう?

本当に綺麗なものなんて、自然界にこの世には存在しないんだ。

信じれば、裏切られる。そんな世界なんだ。

 

ぐちゃぐちゃぐちゃ。世界と書かれた俺のパレットは、いつだって黒しかなくなったんだ。

いろんな色を、汚い色を継ぎ足されに継ぎ足されて。

 

 

ふわり、横で揺れた無花果色は

不意に俺に触れた。

 

 

「魔法使いさんはこうしてさわれますよ。とっても綺麗ですけど、確かに存在します。」

 

 

凛。それはパレットやキャンバスに降った水のように。

見つめた無花果色は、空色と混ざることなくそこにいた。

 

 

「例え他の誰かがそれを否定しても、何回でも私は肯定し続けます。」

 

 

あぁ、ふやけた。

俺を傷め続けた何万の言葉を、

彼女のたった一言がぼやかして、消してしまった。

真っ黒になったキャンバスは、ぐにゃぐにゃにふやけて破れた。

 

 

 

 

あぁ、存在したんだ。

綺麗な綺麗なグラデーションは、確かにここに。

 

 

 

綺麗だね。

 

 

君の世界は。

 

 

久しぶりに笑った俺の笑顔は、想像以上に自然だった。

 

雀の千声眺めの空に溶ける

それは何よりも優しい色

 

 

 

 

綺麗に流れたパレットに、次はどんな色をつけようか。

 

 

 

 

 

―――――――

まったく関係ないけど空って星があると近く見えますよね!

 

 22.11