するり。思わず指を通した無花果色は、とてもやわらかく、簡単に絡み付き、簡単に離れた。

「どうしたの?何かついてた?」

山積みの本と甘ったるい匂いの紅茶。そんなテーブルを挟んで。指を通された本人は、不思議そうにまだ感覚の残る髪に手を置いた。

 

「んいや、何でもないよ。」

ただ、触れたくなっただけ。

そう言ったら、君はどんな顔をするんだろう。そして世界はどんな顔をするんだろう。

そんな単純なセリフを言うことすら叶わず、ただ言葉を濁した。

 

そう?」

そう言えば、目の前に座る少女、ヒカリは、また不思議そうに首を傾げ、無花果色がぱたりと肩にかかかった。

変なの〜と呟きながら先程まで掻き混ぜていた甘い紅茶を飲み始めるその仕草も、見逃すことがないように。

「ヒカリ…………

見つめれば、

「好きって言ってくれないか」

囁けば、

びくりと小さく肩を揺らして固まる。

……っ、なに、どうしたの?急に………っ」

かたかたかたと小刻みに震えながら明るく答えようとしているのだろうが、笑みは硬く引きつって、声はからりと渇いたような

置こうとしていたカップがカチャカチャと喧しかった。

それら全てを、見なかったことにして

「よく昔は言ってくれただろ?」

あの時みたいに、

「な、言ってくれよ。」

無邪気に好きだと口にできたら。

…………………

黙って俯いてしまったヒカリは、もう、笑い事に変換するという

考えすら、思考から抜けてしまったらしい。

こう言えば、こうなることくらいわかっていた。

ヒカリはアカリと違って、嘘をつくのが下手だから。

 

 

「なぁ…………ヒカリ

そ。音を立てず、少しだけ側による。

「こっち見てくれよ」

顎に手をかけ、くいと引き上げれば、

「や!はなして…………!

ばしり。

乾いた音を響かせて、俺の手をはたいた。

行き場をなくした俺の右手が掴んだのは、確証。

 

 

もうどちらかが何かを言う前に

俺はヒカリを掻し抱いた。

本が崩れて紅茶がひっくり返ったが、構う事はない。

甘ったるい香りが、俺をどうにかさせたんだ。

大きく震えた肩に更に力を込めて。

 

 

 

じゃあ俺から言ってやろうか?」

俯いて小さく震える耳に、厚くかかった無花果色の上から

吐息ごと言葉を落とせば

ふるりと身を震わせて

……………ぃ」

ぽつり。かすれて震えた声が俺の肩にこぼされた。

「何………?」

ゆっくり、子供をあやすように聞き返せば

「いた……

ぼろぼろとこぼれはじめる。

「痛いの……痛いよ、そんなこと、言っちゃったら、」

心が。そう言外に聞いて、

うなだれるようにヒカリの肩に額をつけた

 

どうして。

どうして、こんなに苦しいのに

どうして、こんなに同じなのに

この想いを

口に出すことも

伝えることも

実らせることも

出来ないんだろう

 

 

あの時みたいに、

世界なんて考えなくて

無邪気に好きだと

伝えられたらいいのに

 

 

甘ったるい香りが、脳内を侵し続ける。

 

 

今日だけ、狂わせてくれ。

 

 

ロミオとジュリエット

逃げ出すことすらうまくいかない

 

だって僕らは兄妹だから

 

 

 

22.09