ぽろん。つむぎおとした言葉はまるで、禁断の魔術みたい―…


皆が寝静まった深夜、教会に忍びこんでアタシ達は結婚式をあげている。
鍵がかかっていたけど、2行くらいの簡単な初級呪文でガチャンと容易に音を立ててあいた。
ちらりと横を見れば目を合わせて、笑って応えてくれる彼(ヒト)…ユウキがいる。
そうして忍び込み、アタシ達は密やかな式を始めた。


「ねぇ、魔女サマ。」
式が終盤にさしかかった頃、ユウキが静かに口を開いた。
その真剣な顔にドキリとして恥ずかしさに口を少し突き出して答えた。
なぁに?」
名前教えてくれる?」

どきん。
ことことと心地よい音を立てていた心臓が急に跳ねて。
つっと頬を伝った汗は冷たかった。
(あぁ…ついに来たんだわこの時が)
一度大きく深呼吸したあと、小さくこぼした。

ヴィヴィ。」
久しぶりの発音が唇をくすぐった。
ぽろん。つむぎおとしたのは、私の本名で。
ただそれだけだったのに、禁断の魔術を使おうとしてるみたいな感覚。
耳元にあるんじゃないかってくらいうるさく、心臓が主張を始めて、息が苦しくなってくる。
バグをおこしたように単音が素早く細かく耳障りに響いて、耳をふさぎたくなった。
そんなのにイミはないって知ってるし、逆に、これから生まれる音を拾わないとこれはおさまらないってわかってたけど。


やっぱり苦しくてうつむいたアタシの顔に、大きな手が、やさしく添えられた。びっくりして顔を上げれば、嬉しそうに幸せをかみしめてるみたいな、愛しい人―…

「ヴィヴィ。」
ゆっくりと、彼はアタシの名を呼んだ。
いつだってへにょんとゆるみきった口が、
女の子を前にすればさらさらと愛の言葉を紡いでいたあの唇が、
今、静かに  アタシの名を紡ぎ出した。



。」
嬉しかった。素直に。
全身の血がすごいスピードでかけめぐって、顔を耳までくまなく赤くさせて、涙腺を刺激して
内側からなにかが全身をくすぐるような、湧き立ってくる感覚と感情。
あぁまるで人間みたい。
困ったものね、この女の子に弱い、バカユウキの前じゃ、
この偉大な魔女サマも、ただの女の子になっちゃうみたい。


「ユウキ……、っありがとあいしてるっ
ぼろぼろぼろ。涙と一緒に、生まれた言葉が溢れだして止まらない。
いつもなら、「魔女サマが素直なんて珍しー」なんてからかいそうなユウキも、ただ静かに頷いてくれた。



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